食品の腐りやすさについて

最近の話題に、イベントで販売されたマフィンで食中毒が起こった、ということがありした。

正直、ちょっと驚きました。マフィンというのは焼き菓子で、腐ったり、微生物が繁殖したりするものではない、という認識を持っていたからです。

専門知識のある方が解説している記事などを読んで、マフィンといっても砂糖を減らしたレシピになっていたこと、いろいろな具材が入っているマフィンであったこと、などを知り、そうであればやはり腐ったり、微生物が繁殖したりするな、、、と思いました。

子どもの頃はお菓子づくりが好きだったので、いろいろ作って、自分なりにアレンジしたりもしていました。その中で腐らせてしまった経験もあります。それは、かぼちゃのパイかケーキだった...と記憶しています。水分の多い野菜のようなものを入れたお菓子を作るには工夫が要るということを知った経験でした。

「焼き菓子はそう簡単に腐るものではない」「野菜など水分の多いものを入れたら腐りやすくなる」……こういった、食品の腐りやすさとは、どのような要因で決まってくるのでしょうか?

食品の変化・変質は、「物理・化学的要因」、「生化学的要因」「生物学的要因」によって起こる、とされています。腐敗や食中毒というのは、生物学的要因による変質ということになりますが、このことに大きく関わってくるのが「水分活性」です。

食品中の水は、食品成分と水素結合により結びついている『結合水』と、結びついていないから自由に動けて微生物が利用できる『自由水』として存在しています。一般に『結合水』は蒸発しにくく、微生物にも利用されにくいので、食品中の水の役割は、全水分含有量よりも『自由水』の含有量に依存する、ということになります。この、食品中の『自由水』の量を表すものさしが「水分活性」ということになります。次の式で定義されます。

水分活性=食品が示す水蒸気圧/水の最大水蒸気圧

『自由水』が十分にあれば、微生物が活動しやすい、つまり微生物による変質が起こりやすい、「腐りやすい」ということになるわけです。

微生物としては、細菌・酵母・カビがありますが、それぞれの活動に適した水分活性は、細菌は0.91以上、酵母は0.88以上、カビは0.80以上、です。

例えば、お菓子のカステラの水分活性は0.85となっていますので、一般の細菌が活動できる水分活性以下ということになります。おそらく普通の焼き菓子、普通のマフィンならば、一般の細菌が活動できる水分活性以下であろうと思われます。

食品に食塩や砂糖などの水和性物質を加えることは、水分活性を低くする、ということになるわけです。砂糖がたくさん入っている、食塩がたくさん入っている、そうした食べ物の方が日持ちがする、ということを私たちは経験的に知っています。

お菓子を作る際に、加える砂糖の量を減らして作る、というのは家庭で作る場合は気軽に行われることですが、このことはその食品の水分活性を高くすることになり、より微生物が使える自由水が多い食品を作ることになります。つまり腐りやすい食品になる、ということです。

生鮮食品である生肉・魚介類・果実・野菜・卵・水産食品などは、水分活性は1に近く、とても腐りやすいです。チーズ、パンもこれに次いで腐りやすい食品です。これに次ぐハム・ソーセージの水分活性は、0.92~0.93くらい。

日持ちのする食品は、水分活性が0.85~0.65の間くらいになります。干し魚・サラミソーセージ、ジャム・佃煮・味噌・乾燥果実など。乾燥食品の水分活性は0.65~0.5の間くらいです。0.5に近いところでは微生物は活動できなくなります。

食品を製造する場合に最も重要なことは衛生的であることだと思います。それを実現するために必要な知識はいろいろありますが、最も基本的なひとつが「微生物の繁殖しやすさ」のものさし「水分活性」なのです。