「あけび」の苦み成分

山形の秋の味としては「あけび」も忘れてはいけません。

あけびは、きれいな紫色の厚い皮の中に、白い甘い果肉と黒い種が入っている山の果実です。果物として食べるなら、中の甘い白い果実部分を食べるものでしょう。(口に入れたあとに種を出さなければならないので、食べやすいとは言えない気がしますが...)。

あけびの皮は、中の果実よりずっと存在感があり、ずっしりと重いです。食べ物が貴重であれば、食べたいと思えるものだったでしょう。このあけびの皮は、食感としては悪くないものではありますが、たいへん特徴的な苦みを持っています。山形県の山間地では、この皮を調理して食べてきたので、郷土料理として今日に伝えられています。

あけびは、わが家の庭木にもありますし、季節になると八百屋さんの店先でも見かけます。そのどちらにもなかなか手は伸びないのですが、どなたかからいただくことが多く、そのような場合には、実家の母が作っていたように、肉詰めのお惣菜を作ります。

あい挽き肉か豚挽き肉を買いに行って、舞茸を刻んだものと混ぜ合わせ、白い果肉を取り除いたあけびの皮につめていきます。きれいに作りたいときは、タコ糸で巻いて形を整えますし、簡易的に爪楊枝でとめて詰め物が出てこないようにしたりします。フライパンに油をひいて表面を焼き、その後、味噌や酒・みりん、砂糖などを加えて、焦げないように煮詰めてできあがりです。

このように料理すると、味も濃く脂分もある料理になりますので、苦い皮も食べることができます。タンパク質や脂質のコクで、苦みがマスキングされる感じでしょうか。苦みが嫌いな人は、全然積極的に食べたいものではないような気がしますが、山菜好きが多い山形県民は苦み慣れしていて、食べられる人が多いように思われます。このあたりは世代によって変わってきてしまうでしょうか。

 

あけびの苦み成分について、少し調べてみました。

あけびの蔓は、木通と呼ばれる生薬でもあるようで、1927年(昭和2年)にはあけび蔓の成分を分析した論文が日本化学学会誌に発表されています。総括に「アケビより新配糖體(C35H56O20)3を抽出しAkebinと命名せり」と記載されています。1974年の薬学雑誌には、「アケビの茎のサポニン成分について」の報告があります。

配糖体(體は体の旧字)って何?、サポニンって、なんだっけ?という方が多いと思いますので、簡単に説明します。

配糖体というのは「糖がグリコシド結合により様々な有機化合物と結合したもの」と食品の教科書には書いてあります。「植物に含まれる配糖体には、有害物質やその前駆物質がある」という記述も(毒は薬で薬は毒である、わけですので、薬効成分というのは毒と同じ仲間であることも多いわけですね)。配糖体の仲間には、じゃがいものソラニンや、梅やあんずの未熟種子に含まれるアミグダリンなどの有名な植物の毒成分が含まれます。そして、サポニンというのも、この配糖体の一種なんですね。

サポニンの中では、大豆サポニンが有名かと思いますが、大豆の苦み、えぐみの元となっている成分です。このサポニン界面活性作用を持つので、泡立ちの原因となります。大豆から豆乳を作ったことのある人なら知っていると思いますが、生の豆乳を加熱すると泡立って鍋から噴きこぼれそうになりますよね。あの強力な泡立ちはサポニンが含まれているためです。通常はアクとして取り除かれる成分です。

ということで、あけびの皮の苦み成分は、Akebin(アケビン)と名付けられたサポニン、配糖体、ということのようです。苦み・えぐみとして認識されるサポニンの一種が含まれるとなれば、あのあけびのくせのある苦みにも納得です。

様々な機能性のある成分は、苦みを持つことも多く、苦み物質は薬のような成分であると言えるでしょうか。そして、薬と毒は親戚のようなものでもあるのですね。